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2018 CASS-JSPS共同シンポジウム

「中日連携による高齢化社会への対応:ロードと未来」

2018年6月9日(土)、民族飯店(北京)において、中国社会科学院(CASS)と共同で、国際学術シンポジウム「中日連携による高齢化社会への対応:ロードと未来」を開催しました。CASSとの共同シンポジウムは、日本と中国の人文学・社会科学分野における研究交流を促進する目的で2012年から毎年開催されており、今年で通算7回目になります。今回は日中両国から100名を超える研究者や学生、そして政府等関係者が参加しました。

まず、開会式が張季風 中国社会科学院日本研究所副所長の司会進行により執り行われ、日本側からは飯田博文 在中国日本国大使館経済部公使と廣田薫 日本学術振興会北京研究連絡センター長が、中国側からは李培林 中国社会科学院副院長(兼全国日本経済学会長)と劉玉宏 中国社会科学院日本研究所副所長が代表してご挨拶、来賓はじめ参加者に謝辞を述べました。

開会式で挨拶をする廣田薫 日本学術振興会北京研究連絡センター長(左)と李培林 中国社会科学院副院長(兼全国日本経済学会長)(右)

続く基調講演では、鄭秉文 中国社会科学院世界社会保障研究センター主任、教授が日本と中国の高齢化及び老後の生活保障制度を比較し、今後中国がとるべき対策についてインプリケーションを提示しました。遠藤久夫 国立社会保障·人口問題研究所長は超高齢化社会日本における医療制度改革について最新動向を織り交ぜながら解説しました。さらに、杜鵬 中国人民大学副学長(兼老年学研究所長)は高齢化問題へのアプローチとしてライフサイクルを考慮した制度設計の重要性に言及し、政策的観点から今後中国が進むべき方向性を示しました。

基調講演を行う鄭秉文 中国社会科学院世界社会保障研究センター主任、教授(左)と杜鹏 中国人民大学副学長(兼老年学研究所長)(右)

また、今回のシンポジウムは、「現状と課題」、「政策と対応」、「比較と相互啓発」、「中日連携」の4つのセッションから成り、日本と中国合わせて19名の研究者等が、各々が専門とする切り口から高齢化問題について講演を行いました。

第一セッション「現状と課題」では、日本側2名、中国側2名の専門家による講演が行われ、日本側からは、林玲子 国立社会保障·人口問題研究所国際関係部長が日本と中国の介護の需要と供給を比較したうえで、今後中国で保健と福祉人材の確保が課題になることを指摘し、アジアの介護人材の開発に日中間で協力していくことに意欲を示しました。また、別府志海 国立社会保障·人口問題研究所情報調査分析部第2室長は日本と中国の高齢化の進行状況を比較し、日本の高齢期の健康データから得られるインプリケーションを提示しました。中国側からは、王暁峰 吉林大学東北アジア研究院人口・資源と環境研究所長が既婚率と出生率に着目し行った日本と中国の少子化の要因分析の結果を発表し、少子化対策としての婚姻奨励の有効性に言及しました。林明鮮 中国山東工商学院教授は、中国都市部の60歳以上の独居高齢者を対象とした実地調査から得られたデータを用い、独居高齢者が感じる孤独感に影響を及ぼす要因を考察し、政策提言を行いました。

第二セッション「政策と対応」では、日本側3名、中国側2名の専門家による講演が行われ、日本側からは込山愛郎 厚生労働省老健局振興課長が日本の介護保険制度の概要を説明し、今後の課題について言及しました。武川正吾 東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授は、高齢化に伴い、20世紀第4四半期に介護問題が誕生し、新たに登場した介護による家族解体を回避するため、21世紀初頭に介護保険を中心とする介護レジームが形成されたが、その維持が困難になりつつあることを指摘しました。また、殷婷 経済産業研究所研究員は介護保険制度の制度的問題のうち介護労働者不足に焦点を当て、介護事務所の運営方法及び介護労働者の性質が介護労働者の賃金に与える影響について実証分析した結果を紹介し、政策インプリケーションを示しました。中国側からは、王偉 中国社会科学院日本研究所研究員は日本の少子化が進行した理由として政策的失敗を挙げ、中国は日本の経験から学ぶべきであり、日中両国の関係機関が少子化問題に協力して取り組んでいくべきであると強調しました。王橋 中国社会科学院人口と労働経済研究所研究員は中国の在宅養老介護サービスについて、実地調査の成果を報告し、今後の展望を述べました。

第三セッション「比較と相互啓発」では、日本側2名、中国側3名の専門家による講演が行われ、日本側からは、中川雅貴 国立社会保障·人口問題研究所国際関係部第3室長が日本の高齢者の居住地移動について考察し、中国の高齢化への含意を示しました。山田昌弘 中央大学文学部教授は日本の少子化対策がうまく機能しなかった要因として未婚者の実情把握の失敗を挙げ、子供に経済的に惨めな思いをさせたくないという意識が日本の若者の出生意欲を低下させている可能性を指摘しました。中国側からは、曲徳林 清華大学日本研究センター教授(元北京語言大学学長)が、日本と中国の高齢化政策の比較を行い、日中のサービスシステムにおける連携の可能性に期待を表しました。馮文猛 中国国務院発展研究センター研究員は日本と中国の高齢化問題への対応を比較し、それぞれの優位性を挙げたうえで、互いに手本にすべき点及び協力し合うべき点について言及しました。また、于建明 中国民政部政策研究センター研究員はドイツ、日本、韓国の長期介護保険の比較を行い、中国へのインプリケーションを提示しました。

第四セッション「中日連携」では、日本側1名、中国側4名の専門家による講演が行われ、日本側からは佐々井司 国立社会保障·人口問題研究所情報調査分析部第3室長は海外に住む日本人及び日本に住む外国人の特徴について解説し、近年の日中連携の具体例を紹介しました。中国側からは、顧厳 中国国家発展改革委員会マクロ経済研究院研究員が中国のGDPと高齢化について考察し、中国の高齢化の未来について見解を示しました。李輝 吉林大学東北アジア研究院人口·資源と環境研究所教授は居住環境にこだわる中国の高齢者養老方式に基づく研究について発表を行いました。続いて、張雪梅 北京国安養老産業投資管理有限会社副総経理は提供している在宅サービスのビジョンやサービス内容を説明し、今後の展望を述べました。さらに、柴永光 一般社団法人日中医療福祉交流協会代表理事はコミュニティ養老の課題を指摘し、その解決策としてショッピングセンターの活用を提唱しました。

最後の閉会式では、遠藤久夫 国立社会保障·人口問題研究所長と張季風 中国社会科学院日本研究所副所長がシンポジウムを総括し、日本と中国は、高齢化に伴う異なる様々な課題に直面しており、それぞれの経験から互いに学び、新しい発想を生み出すことで、明るい未来を創造できると述べ、今後ますます加速する人口高齢化について日中間で更なる協力が進むことに期待を示しました。

総括する遠藤久夫 国立社会保障·人口問題研究所長(左)と張季風 中国社会科学院日本研究所副所長(右)
全体写真